波佐見 KIYOTO TERRACE は、児童文学者・福田清人先生の生家という文化的記憶を宿す住宅を、宿泊機能へと再編した建築である。主題は保存でも更新でもなく、継承を媒介にした再編集にある。鬼木棚田の折層的な地形・時間感覚に呼応し文化的景観の一部として振る舞う。
1. 伝統性の保持 「座敷間」という記憶
座敷間は単なる様式保存ではなく、構法・寸法・身体感覚が編み上げた生活のアルゴリズムとして温存されている。畳割り、開口、視線の抜けは、住まいの知を形式として残すための最小単位であり、結果として「過去の再現」ではなく「時間の厚み」を獲得する。
2. 大胆な現代性 「たたき土間」という公共化装置
対照的に導入されるたたき土間は、私的な住宅を半公共的な滞在装置へと転位させる。素材の粗度と連続する平場は、内部に風景を引き込み、動線と居場所の自由度を拡張する。ここでは伝統と現代は対立せず、異なる時間層が同一平面上で交差する。
3. 構造補強 可逆性を内包した構造の更新
木造架構の補強は、露骨な表現を避けつつ可逆性と将来更新を前提に組み立てられている。補強は意匠化されることなく、しかし隠蔽もされない。これは保存と耐震の折衷ではなく、木造文化の持続可能性を構造言語で示す態度である。
4. 廃石膏の活用 地域産業を素材へ還元する
壁・床に用いられた廃石膏は、波佐見焼という産業の副産物を建築素材へと転写する試み。
「地域性」は意匠モチーフではなく、マテリアル・サイクルそのものとして実装される。産業の痕跡が空間の触覚として立ち上がり、土地の経済・環境と連結する。
KIYOTO TERRACE は、記憶(文学)・風景(棚田)・産業(波佐見焼)・構法(木造)を一つの建築的コロジーとして束ね直す試みである。伝統は固定されず、現代性は突出しない。両者は相互に浸透し、時間のレイヤーが可視化された滞在建築として、静かにしかし確かに成立している。