1968年開校の九州芸術工科大学(現九州大学)キャンパスは、香山壽夫助教授(1972年当時。東京大学名誉教授)により計画されました。その基本コンセプトは、「コミュニケーション・スペース」と「サーキュレーション・スペース」であり、「対話によるフォーマル・コミュニケーション(講義室・演習室)」、「学生や教員のインフォーマル・コミュニケーション(ラウンジ・テラス)」、「フリー・コミュニケーション(中庭など)」が、段階的そして連鎖的に構成されています。 デザインコモン(学修支援施設)の計画は、この基本コンセプトを継承しながら進めました。現代的なアクティブ・ラーニング空間の創出を中心的課題とした上で、デザインに関わる研究教育情報の発信拠点として社会との相互浸透も意図していることから、キャンパス正門近くに配置しています。また、「囲み型配置」、「ロッジア的構成」の基本原理を踏襲ながら、「囲み型」の強化と立体的連続性を敷衍しています。さらに、「シンメトリー」、「建築オーダーの反復」など、既存建築群に引用されている幾何学的秩序と、材料・表現としての打ち放しコンクリートを継承しました。これらは固有なものでありながら同時に普遍的なものであり、空間の持続性を必要とする大学キャンパスに不可欠なものと捉えたからです。 さらに新たな試みとして、2種類の「トロコイド曲線」による穏やかなアーチ状大開口部が、利用者にわかりやすさを与えながら、キャンパス内の既存緑地環境や周辺環境と調和することも目指しています。 開学から連綿と発せられてきた原理性と意味性を継承ながら、知の拠点としての空間性と、新しくかつ多様なコミュニケーションの場としての空間性という両面性を達成しようとしました。