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新松原みんなの家
House for Everyone Shinmatsubara

2018 熊本県宇土市

 2016 年4 月14・16 日に発生した熊本地震では、熊本県を中心に甚大な被害が発生した。全壊8,697棟、半壊34,037棟、一部損壊155,902棟、公共施設被害439棟などが確認された「建物被害中心型」の大災害であった。災害後は15市町村110 ヶ所の仮設団地に4,303 戸の応急仮設住宅が建設され、各仮設団地には被災者の再建活動やコミュニティ形成の促進を目的とする「みんなの家(集会所)」が95棟建設されている。

みんなの家の事業スキーム  災害救助法では、応急仮設住宅50戸以上を一つの敷地内に設置した場合、被災者の再建活動を補完する仮設団地内集会施設を設置できることになっている。熊本地震では「規格型」「本格型」と呼称される集会所が84棟整備された。しかしながら、被災範囲が広範であったことや既存コミュニティの継承を重要視したこともあり、応急仮設住宅20戸以上が66団地に対して、20戸未満が44団地もあった。

 「被災者の痛みの最小化」「創造的復興」を復旧復興の原則とする熊本県の方針に沿うかたちで、応急仮設住宅20戸未満の小規模仮設団地には、(公財)日本財団による「住宅・事業再建資金のための融資制度(わがまち基金)」の一部を活用し、自主提案型の「プッシュ型」と呼称する小規模型「みんなの家(集会所)」を整備することになった。
 整備主体は熊本県(土木部建築住宅局建築課アートポリス・UD班)及び(一財)熊本県建築住宅センターとの共同、完成後の管理及び運営は施設譲渡を受けた市町村・自治会等となった。また、設計者の選定は伊東豊雄・熊本アートポリスコミッショナーによる推薦、施工者は災害協定締結団体等からの斡旋となっている。

新松原みんなの家
 最大震度6強を観測した宇土市(人口37,458人)では、死者7名、全壊127棟、半壊1,664棟、一部損壊5,523棟などの被害があり、仮設団地6カ所、応急仮設住宅143戸が整備された。
 新松原仮設団地はプレハブ建築協会施工による18戸の小規模仮設団地であり、「新松原みんなの家」は敷地の制約などから100mほど離れた市所有の、九州新幹線・JR鹿児島本線・JRあまくさみすみ線・国道57号立体橋・調整池・水路などの交通インフラ等の土木構築物に囲まれた変形敷地に計画されることになった。この変形敷地が生成されたのは、元々北東-南西軸の街割・区画形成に南北軸の鉄道や道路が敷設されたためである。
 2017年7月25日に、近隣住民約25名との意見交換会を宇土市仮庁舎内会議室にて行い、「気楽で自由な使い方」「料理ができること」「緑や花を楽しめること」「若い人にも使ってもらいたい」「地元の自慢になること」などの意見が出され、運営や管理方法についても議論を行った。仮設団地撤収後も「新松原みんなの家」は継続して新松原地区の公民館として使用されることも確認された。変形敷地生成の歴史的理由の説明も行い、配置計画の方針も了解が得られた。
 設計は、「開いた空間」とすることを主眼としながらも、周辺インフラ構築物との接触領域には2枚の壁による境界を創ることとしている。二等辺三角形平面や全体のプロポーションは、三角形状の敷地条件よりも騒音や景観など周辺環境条件に依るところが大きい。最小限の室内空間からも近隣住宅地からよく見えるように最大辺を全面開口とし、通り庭との連続性を図っている。外壁・屋根材にはコンクリート構造物とは対比的な「土色」を使用し、テクスチャの混在による景観の土着化を意図した。
 架構は105㎜×330㎜の登梁、最大辺両端の桔木のはねだしにより、桔木接合金物の若干の複雑さを除けば単純かつ合理的な計画とした。木材は全て熊本県産杉流通材を使用し、外装吹付材を除くほぼ全てを乾式工法で構成している。災害後は材料・職人確保が困難を極める中、可能な限り手間の省力化を試みる所以であった。
 緑地は、「被災された地域の方々が適度に植栽・管理に関わること」、「季節を通じて美しい緑と花に触れること」「建築形態を活かした植栽配置」を基本的な考え方とした。三角形平面の各頂点が視対象となるため冬に花を咲かせるサザンカ、2月頃に花を咲かせるマンサク、夏に赤い花を咲かせるサルスベリをそろぞれ配置し、その間に宇土市のシンボル花であり6~7月にかけて花を咲かせるアジサイを配植している。
 縁側からは、その季節にはアジサイのパノラマが楽しめ、サザンカ・マンサク・サルスベリは、冬と夏の点景となる。アジサイの下には、シャガ・キボウシ・ヤブラン・ツワブキなど、手のかからない在来多年草を配色している。

 2018年4月22日の完成式では、多くの住民に加え建築・造園施工者、自治体職員、KASEI6)による学生ボランティア、全国女性造園技術者の会メンバーなど多くの関係者・ボランティアが集まり、植栽の植え込み作業を行い、その後大いに語らい合った。環境の創造を通した地域の求心性や協働性が確認できた時間でもあった。「暗い被災地の住宅地の片隅に明かりが灯り、希望の灯火にも見える」という意見も聞かれ、小さな空間ながらも有機的に馴染んでいくことが期待される。社会福祉協議会による体操教室やお茶会、地区の会合や子ども会のイベントにも使われ始め、今後はさらにこの地域の復興が進むことを願っている。

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